スイスの持続可能な林業

2016年02月17日

近自然の森づくりを行うスイスから、元上級フォレスター(※)のマルティ氏を迎え
講演会が行われましたので、行ってきました。

昨年はフォレスターのロルフ氏が来日され
奈良でワークショップやフォーラムが行われました。
今年もその流れですね。
奈良県がスイスの森づくりを参考に考えておられることは
わたし的には嬉しいのです。
林業のプロでないからこそ、素直にそう思えるのかもしれません。
やはりこれからは森に限らずですが、エコロジカルで
社会貢献性のある考え方に基づくしかないと思っていますし、
それはなにも、外国をお手本にしてひたすら真似るということでもなく、
「日本らしく」「その地域らしく」参考にしていくのがいいと思います。

林業が衰退するのでなく、持続すること。
それによって森が荒れるではなく、自然に近づくこと。
これが、近自然の森づくり。
日本で、奈良で、これからはどうなるでしょうか。

奈良県からの案内を見てみましょう。

スイス森林管理有識者交流会
オープニングフォーラム開催のお知らせ
近年、奈良県の森林環境は、林業を取り巻く厳しい世情や森林所有者の林業経営意欲の薄れなど、
その管理を巡って多くの問題や課題を抱えています。一方、急峻な地形や森林の所有形態など、
林業において日本と共通点の多いスイス連邦共和国(以下、スイス)では、環境面と経済面を
両立させつつ持続可能な林業を行う森林管理のしくみが確立しつつあるといいます。
こうしたスイスの森林管理のノウハウを奈良県の森林・林業・木材産業に応用するためには
どのような工夫や考え方が必要となるのでしょうか。
スイスよりお越しいただく上級フォレスターと奈良県で森林に携わる皆さまとの交流を通じて、
ともに考える機会を設けたいと思います。

(森林に携わっていないわたしでも、参加OKだったのです。)

※上級フォレスター
スイスには、フォレスターという職業があります。実務と学問を両方学んだ有資格の専門職です。
マルティさんは、大学出の行政マンとして、地域の森林管理を制度面や学術面で支え、ベルン州の
フォレスター養成学校の講師も務められました。

スイスに限らずですが、ヨーロッパの林業が注目されているように思います。
どこの国の事情に触れてみても、共通するものがあるのです。
それは、産業革命の時代に、木を伐り過ぎて枯渇させてしまったこと。
その反省から、森を大切に思う精神が深く根づいていること。
イギリスでも、ドイツでも、スイスでも聞きました。
(注 現地を知る人から聞きましたの意味)

当日の資料から・・・スイスでは160年も前に、こんな法律ができています!

連邦森林法 1856年
林地および空間的広がりを保護する(森林は1㎥たりとも減らしてはならない)
自然に近いエコシステムとしても森林を保護する
森林が利用機能、安全機能、公益機能を実現し続けることができるように保障する
時速可能な林業経営を支援する

恒続林の定義
皆伐をしない
混交林
天然下種更新
木材収穫=森の手入れ
立地に適した樹種
通例は複層林
単相林(かつて造林された)は複層林にシフトする

ここで順番を正しくとらえると、
マルティ氏いわく
「スイスの森は美しいですが、美しさのために生まれたのではなく、
経済的にたてなおすために生まれたものです。最初から恒続林(自然に則した林業を行う森林)を
求めたのではなく、求めざるを得なかった。美と経済は両立するのです」
ということで、最初にあったのは経済的な目的だったとのこと。

自然がやってくれることは自然にまかせよう、そのために自然をよく観察し、
介入のしかたを工夫しよう。
そういう考え方がベースにあります。それがローコストにもつながるそうです。

住民として、「ここが違うのかな」と思ったところ。
森を一度失い、復活させてきた背景と
関連しているようにも思いますが
スイスでは人々が強烈に生物多様性を望むのだそうです。
「強烈に」というところが、日本と違う。

当日の資料から・・・

明確な政治的意向
住民が恒続林を望むこと
議会が法的根拠を提供すること
行政が法を施行すること
森林所有者が恒続林施行のプロセスに参加すること(長期的な目標を持つ所有者であること!)

一番最初にあるのが「住民が望むこと」なんですね。
わたし、望んでいますけど・・・まだまだ少数派なのかしら。

江戸時代までは、日本人こそエコロジカルな住民だったのでは?と思うのですが
どうも西欧化するにつれて、自然をお金に変えるほうにばかり走ってきたような。
そして、自然の賦活力が強い日本であっても、調和が崩れつつあるような。
先輩のヨーロッパは、もう痛い目にあって、シフトチェンジしているのです。

ともかく、スイスの森づくりはノウハウができつつあり
それが経済的にもうまくいっているということは事実のようです。
スイス産木材の輸出先には、しっかり日本がありました。
ああ、ちょっと悔しい。
奈良でも、近自然的な林業が生まれてもいいのでは。
ロールモデルになる人は現れるでしょうか。

それには、林業のプロがスイスに学ぶだけではなくて、
まず、わたしたち住民が生物多様性を強烈に望むような変化が来たときに
現実味が増してくるものではないかと思いました。

先日書いた飛騨産業の例をみても
「節のあるほうの家具を望む人がいる」というふうに
消費者ニーズも変化してきているようです。
吉野林業は、その時代に求められた材を丁度いい具合に供給できたことによって
発展したのですよね(城下町づくり、樽丸、住宅建材・・・)

消費者である住民と、行政と、業界と・・・
「自然なほうがいい」というコンセンサスが生まれるといいなと思います。
生命や自然を尊ぶ精神にこそ、持続可能性があると思うから。

次の記事で、当日の QandA コーナーでメモしたことを載せる予定です。