奈良の山の中で、おいしいお味噌が作られていました。

2017年03月31日

いつもしばしば、ランチを食べに言っている「ぷろぼの食堂」さん。

ここの定食は、とにかくごはんとみそ汁がおいしいことで定評があります。
特に、みそ汁は「発酵してる〜」という厚みのある味わい。
どうしてこんなにおいしいのか、その謎を知りたい、という店長とともに
加工場へ行ってきました。
ぷろぼの食堂が味噌を仕入れているのは、
オーガニックなお茶で有名な「伊川健一農園」さん。
その健ちゃんに案内していただきました。

手前に見えているのは、夏場にトマトジュースが作られる工場です。

これから、行くよ。健ちゃんと待ち合わせ。

今回は、その奥に建っている奈良市農産物加工センターへ。

奈良市農産物加工センター

〒632-0112 奈良県奈良市針ケ別所町1025

味噌づくりの現場にてゴキゲンの店長と、いつもニコニコ健ちゃん

ちなみに、ここで作られているオリジナル製品は、針テラスにある「つげの畑高原屋(こうげんや)」で販売されています。

ここでは、業者さんや地域の家庭から委託された味噌が作られています。
地域のおばあちゃんから材料とレシピを提供されての、小ロットの味噌も作ってあげるんだそうです。

【余談】山村さん「味噌造りは、このへんでは「家庭によって、少しずつレシピが違うんだそうですよ」
それに対応して作られるそうです

健ちゃんも年間100キロくらいの味噌づくりをここに委託しています。

さてこのへんで、味噌はどうやって作られるのか、
一般的な話をおさらいしておきましょう。

味噌の主原料は大豆と、米麹と、塩。
大豆を細かく砕いてペースト状にしたものと、
お米を発酵させた麹と、
塩を混ぜて1年(これはさまざま)寝かしたものです。

つまり、大豆とお米が味噌の味に大きく影響しますね。
健ちゃんの味噌の原料となる大豆とお米は、もちろん伊川健一農園から納入されます。
健ちゃんのお味噌の秘密がひとつ、わかりました。
それは、原料に黒大豆を使っていること。
ぷろぼの食堂の味噌の色が濃いめなのは、このためでもありました。
黒大豆は皮の中身は白いのですが、味噌造りでは大豆の皮もいっしょに仕込むので
色素が味噌に反映されるのです。

この日は、健ちゃんのお味噌でなく、通常の(?)お味噌づくりが行われていました。
健ちゃんの原料とは違いますが、プロセスは同じです。

大豆は、通常幾種類かをブレンドしているそうです。
説明してくださったのは職員の山村理恵子さん。20年以上も勤続されているベテランです。

山村理恵子さん


「本当は、地元の大豆だけで作りたいのですが、作られる農家さんが減り、獣害の影響もあって
できません。それで県外から仕入れた大豆をブレンドしています」

大豆はブレンド。本当は地元産のがいいのだけど、と山村さん。

「奈良の大豆や小豆は、もともとすごくいいんです。香りがよくて、ねばりもあって、すごいんですよ。でもなかなか手に入りません」とのこと。。。

【工程を見せていただきました】

圧力窯で大豆を炊いています。24分炊いて10分蒸らします。

やわらかくなった大豆。ブレンドしたあるので、大きいのや、小さいのや。

扇風機で風を送って、さましています。

大豆を挽いています。ミンチ肉のような、マロンのような。あっというまに、出てきます。

混ぜる機械に、米麹と塩が入っているところへ、さきほどの大豆を投入。

大事な隠し味は、大豆の煮汁。家庭によっては、これに酒粕や豆を加えたりする人もあるそうです。

機械がまわる間、あふれないように押さえつけておくんですよ。

さて、ここからは麹づくりをご紹介します。麹も加工場で作られています。

まずは、ごはんを炊いて、手で広げながらさまします。45度くらいになったら、機械の中にセットして広げ、
菌つけをして、35度くらいになるまで揉みます。この菌が発酵して、麹になるのです。ここまでは、お酒と似ていますね。
お酒になる麹は、でんぷんをよく分解するタイプが使われ、
お味噌になる麹は、蛋白質をよく分解するタイプだそうです。

菌がうまく働いてくれるかは、温度管理が重要。
温度が低くても菌の働きがわるく、高いと納豆菌のほうが勝ってしまうんですと。
60度を超えると、死ぬんですよね。

下のほうにヒーターがあります。最初のうちはこれで保温

これは前日に仕込んだもの。ヒーターは、仕込んだ当日の昼頃までに切ります。その日の夕方から翌日の朝までが勝負だそうです。一晩たつと、菌と菌が手をつなぎ、軽く固まっていますので、これを手でほぐします。

発酵が活性化すると発熱しますから、こんどは温度が上がり過ぎないように、奥のファンで冷却します。センサーを入れて、温度管理。

この麹が、さきほどの機械で大豆といっしょになって混ざるわけです。

そして次は寝かせます。

大きさは横の段ボールと比べて想像してください。この中で味噌が寝ています。

健ちゃんの味噌もこうして保管されているとのことでした。
じっくり熟成しているのも、美味しさの理由のひとつ。

そして、この空気と水のきれいな環境や
職員の方の丁寧な製造、健ちゃんが納入するオリジナルな無農薬の黒大豆とお米。
これらが合わさって、ぷろぼの食堂の味噌になるのですね。

でも、特別なことはしてありませんでした。

「秘密って、何だったんだろう???」と店長。

あたりまえのことをあたりまえに。実は、それが稀少な価値なのかもしれませんね。

加工場へ案内していただき、地元の大豆が手に入いりにくい状況をあらためて認識しました。
かつて、米からの転作に補助金がついた時代があったそうです。
その頃、大豆に転作する人が多くありました。
しかし、20年ほどまえに補助がなくなり、高齢化もあり、選別の手間もかかり、
獣害と闘いながら大豆を作る人は減少の一途をたどっているそうです。
奈良の大豆は誇れる味なのだと知って、残念な気持ちにもなりました。
そんな中で、地元の無農薬大豆を手配している健ちゃんの味噌をいただけることが、貴重に思えました。

地域からのちいさなオーダーがあるのは、
「もう年をとって味噌を仕込むのがしんどくなったおばあさんから」頼まれるからだそうです。
家庭で味噌を仕込む風習がここには残っているのですね。
山村では、スーパーにしばしば買いにいくより自宅で寝かせるほうが便利かもです。
この頃は、味噌を自分で仕込むワークショップも行われるようになり、
麹の価値が見直されてきています。
手作りの味噌文化が復活するといいなと思います。
各家庭に「手前味噌」があったら、いいなあ。
ただ、わたしのような者は、なかなか美味しい味噌を手作りし続けるのは大変かも。。。
こうしたちいさな加工場で作られるお味噌を
地域で食べられるのは幸せなことです。

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