生まれた場所を遠く離れても
地元には何もない。
都会なら、本屋もたくさんあるし、お店に並ぶ服もおしゃれ、かわいい雑貨店もある。
10代の頃は、そう思っていた。
インターネットはなく、都会に行くしか触れることができないものがあった。
何もない地元なんて、どこにもないのに。
「その地に根ざす」という言葉に出会ったのは、
子どもを生んでからだった。
ダンプの廃棄ガスが洗濯ものにつなかい街。
春になると、田圃に一面のレンゲが広がるところ。
(レンゲはもう減ったけど)
子育てをするなら、奈良がいいと思った。
わたしたちの親世代にも、そう思って奈良に引っ越した人たちがいるだろう。
学生時代に過ごした街。
独身時代に過ごした街。
そして故郷。
わたしは、どこにも帰属できなかった。
でも、「その地に」根ざすことが
自然環境を大切にする第一歩になると気づいたとき
どこでもいい、今暮らしている場所に根ざして
その古い歴史や、風土や気候、生き物たちが教えてくれることに
関心をもって、愛情をもって暮らせばいいのだと思った。
わたしにとって、それが奈良だった。
今でも、ここではよそ者にすぎないと思う。
地元で生まれ育った人たちならではの魂を
わたしは持っていないだろう。
だけど、よそ者だからだろうか
歩いていける距離にある奈良公園の紅葉を見るとき、
わたしはいつでも観光客に戻る。
何を見ても、いつまでも新鮮な眼差しでいられる。
一方で、かけがえのない出会いも作ることができた。
ここで暮らしていく限り、
そんな人たちとのつながりを愛しみ、楽しみ
年をとっていきたい。