台風19号と森

2019年10月18日

NPO法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会 の代表理事である中嶋建造氏の投稿をシェアします。

 

平成23年の紀伊半島豪雨災害を皮切りに、岩手岩泉豪雨災害、九州北部豪雨災害、西日本豪雨災害、そして今年は複数(九州・千葉・今回の台風19号)の豪雨災害が毎年連続発生して大変な状況です。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

 

豪雨災害の第一要因は激しい風雨ですが、災害を拡幅させている人的要因があると感じています。

その要因によって災害の規模が大きく違ってくるのではないかと。
 
私は高知在住ですが、昭和45~51年にかけての高知の災害状況に似ていると思っています。高知は、①昭和45年台風10号災害、②昭和47年繁藤災害、③昭和50年台風5号(仁淀川災害)、④昭和51年17号(鏡川災害)と連続して大災害に見舞われました。
この時期の高知の山林は、戦後の皆伐からの拡大造林後10年前後という状態です。皆伐後造林されたこのころの山林は、伐られた木の根が腐り始め、植えた木はまだ小さくて地面を抑える力が弱いという段階です。この時期に豪雨が来ると山はひとたまりもなく、土砂災害が激増したと考えられます。実際に、崩壊したところの多くは、植林後まだ大きくなっていない人工林でした。台風は毎年のように来ていましたが、災害が集中したのがこの時期です。全国的にも、気象庁の災害履歴を見ると毎年土砂災害が多発していることがわかります。
その後、人工林の樹齢が20年を超え根も張ってくると災害は激減(昭和50年半ば~平成20年頃まで)し、平成23年以降また激増し始めました。つまり、伐採が増加し、若齢林が増えると災害が増え、成熟林が増えると災害が減ったという事実が厳然とあります。

 
ではここ数年の災害激増した時期と林業にとっての関係はどんなものでしょうか。
 

平成21年から森林・林業再生プランが動き出して10年が経過し、間伐であっても生産を伴わない施業は補助金が出なくなり、大量生産型の大規模施業一辺倒に一気に突入した時代です。
さらにFITで木質バイオマス発電が動き出し、大型発電所に大量出荷が始まって8年が経過し、燃料材需要が激増しました。そのため間伐施業でも大量生産化が押し付けられ、一気に大型高性能林業機械を使い始め、皆伐が全国で激増しています。間伐施業も皆伐施業も大型機械を使うため幅広の作業道が敷設され、この作業道が豪雨毎に至る所で大崩壊を起こしています。皆伐地においては、すぐに作業道崩壊が起きて、その後10年で斜面崩壊も起きるという、二段構えで被害が起こしているのです。

 
それと上流部における斜面崩壊や山腹崩壊は、その箇所に人的被害が無くても、下流へ土砂を供給します。河川が濁流化すると、流れが緩やかになる下流部の河床に堆積します。河床が上がると堤防越流や堤防決壊に直結します。平成28年に起こった岩泉豪雨でも平成30年に起こった西日本豪雨でも、これが起こった可能性が高いです。今回も堤防決壊が多いのは、これが影響している可能性も高いと思われますし、実際に決壊した河川の流域に皆伐が多いところがかなり含まれています。

 
つまり、林業による全国的な大量伐採と土砂災害の増加は(トランプ風に言えば)、完全に相関関係にあるということです。昨今は温暖化により豪雨がさらに激しくなっており、土砂災害の規模も箇所も拡大しているということです。同じ過ちを繰り返してはいけません、今こそ林業の施業手法の転換を図るべきです。多間伐施業による自伐型林業は災害を防止する効果を発揮する手法として証明されてきています。

 
被災される方が多数に及んでいます。林業界は今、九州では盗伐などというふざけたことが起きています。ふざけている場合ではないのです、荒い施業を隠したり、災害を拡幅させる原因をごまかしたりしている場合ではないはずです。今こそ真剣に考えないといけない時期に来ていますね。

 
よくよく考えていかないと、災害を誘発する林業に未来などあるはずがないですね。まさしく「絶望の林業」です。

 

SNSで発信されたこの投稿に対して、こんな書き込みがありました。

河川管理と山林管理の行政上の所轄が別々になっており、同じテーブルでの議論が難しいのではと思います。又、山林管理予算は残念ながら微々たる額となっています。

川は山から街まで(県境を越えて)繋がっており、山で起こっていることが街に影響を与えることを痛感させられる台風でした。
中嶋さんの投稿は、森づくりと災害の話でしたが、次の動画は川(水脈)と災害のお話です。昨年の西日本豪雨の後で行われたセミナーです。

川を人工的に塞き止めることが、自然という抗いがたいものに対してどの程度許されるのか、土木の専門家の方に本当に考えていただけないでしょうか。
また、自然を封じ込めるのでなく、自然と共存することで災害を和らげるような考え方と技術に対して、理解が進むことを願っています。