ホームでの出会い

2013年12月15日

前から顔は知っていたのですが、今もって名前をしらない彼。さわやかなルックスです。

駅のホームで会いました。わたしの名前を読んでくれて、「いつもだんなさんにお世話になってます!」とぺこり。

途中まで同じ電車に乗ったので、そのまましばらく話しました。

だんなさんというのはMくんのことで、障害ある人の就労を支援する仕事をしています。

●障害があるようには見えないよね。
「はい…。発達障害なんです」
●だから、かえって大変なことがあるんだよね。
「そうなんです(笑顔)」

Mくんの所属する職場で就労のための訓練をうけながら、Mくんの部署で週に1日くらい実習しているそうです。
関西では名前の知られる大学に通う4回生でした。

就活の時です。
「学生課は「自分で頑張って」という感じなので、自分で探しているのと、今訓練を受けているところで相談にのってもらうのと、半分半分くらいで考えてます。友だちはみんな就職先が決まってきているので、焦りはあるんですけど、まだ決まってません。」
わたしはむしろ、ご両親の理解があるなら焦ることはないのではと思いました。

10歳くらいのとき、両親に奨められて、発達障害があるかどうかチェックするところへ行ってみたら、そうだってわかったそうです。コミュニケーション能力がないのだとか。でも、自分のことをたんたんと話してくれる彼を見ていると、そんなふうには、なかなか思えませんでした。

わかってくれる人とだったら、なんとかやれそうな気がするけど、人に言うと「気を使わせちゃうんじゃないか」と思ってしまうから、普通は言わないことのほうが多いとのことでした。

「隠したい」でもなく、「もっとわかってほしい」でもなく、
相手に気を使わせてしまうことで、自分がしんどくなってしまうのでしょうか。

それまで、なんとなく人と違う感じはあったそうです。「何かの用意をするときなど、僕だけ、最後になっちゃう…とか」

先天的な障害があって、気づいたときからそれと共に生きてきた人たちとは違う思いが、彼らにはあることでしょう。
思春期にさしかかる頃に知って、それを受け入れながら5年を過ごしてきたのですね。
人と違う寂しさ。いつも取り残される寂しさ。そんな気持ちがあったでしょうか。これはわたしの想像ですが。

仕事をする、ということは、社会が求めるスキルを果たすということだから、
普通にポンと就職したら、「他の人と違う」というさまざまなシーンで苦しい思いをするかもしれません。
だからこそ、ほんとうは「知ってくれている人たちの中で」「バックアップを受けながら」自分に長けているところを見つけて
仕事をこなせるようになれたら、大学受験に通るほどの彼なら、きっとやっていけるではと思えてきます。

でも会社には会社のリズムがあるでしょうし、給料を払うためには利益追求のミッションもあります。
彼がそれになじめるかどうかは、社内の中にソーシャルワーカー的なチカラのある人がいないと、難しいのではないでしょうか。
そういう会社が増えてくれることを願いたいのですが、それを負担に感じる会社があっても無理もないことです。

だからこそ、Mくんのような専門家が、仕事をつくり、雇用し、社会の中に彼らが輝ける場所作りだして行ってほしいと思います。

それが今Mくんが取り組んでいる三つの事業です。彼がその職場を望むかどうかは、また別の話で、
いまの就活が実を結び、彼に合った職場が見つかることを願いたいと思います。
でも、どうしてもうまくいかない…と感じることがあったら、Mくんたちのような人もいることを思いだしてドアをたたいてくださいね。

何事もうまくいく人なんて、ほんとにいるんでしょうか。
一見そのように見えても、みんな、見えないところで苦しい思いを経験しています。
Mくんの職場のスタッフの中には、一度は違う会社で仕事して、何か理由があって福祉の業界へ来た人もいます。
苦しんだ経験が、障害ある人とともに働くという根気の必要な仕事を可能にしていると思えます。
Mくん自身も、自分のことをある意味欠陥人間だと思っているから、
障害のあるとか、ないとか、ということは、ほんとうはボーダーの不明瞭なことだと言います。
ただ、支援の必要な人と、たまたま支援なしになんとかなる人がいて、
支援の必要な人には支援を、と思って仕事しているそうです。そのために自分がいる、と思うことに
Mくんは力をもらえているのかもしれません。

今度会うまでには、彼の名前を覚えよう。
彼が自分の障害を話せるような出会いにたくさん恵まれますように。
彼が自分の良さを知って仕事に生かせる日がきますように。
彼がしんどくなったら、帰ってこれる場所がいつでも、ありますように。

ホームで出会ったのも、ご縁だから、
うちの次男と同じ年齢くらいの彼を、いつまでも見守りたいと思いました。

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