Kと久しぶりに会話
Kとは一応同居している(Kが居候している)ものの、
顔を合わせることも、ゆっくり話すことも、年々少なくなっている。
もともと、あまり自分から話すほうではない。
こちらが水をむけたときだけ、しかも漫画がテーマのときだけ、
Kは時々雄弁になる。
先日は、有名な漫画家先生の本を読んだという話をしてくれた。
その先生の名前はすでに、わたしの記憶にはない。忘れた。
覚えているのは、Kが話してくれたことだ。
先生は、長期にわたる連載を複数持っている売れっ子であるばかりでなく
そのアシスタントがちゃんとしたデビューをすることで有名らしい。
なぜなのか?
先生のスタジオのようすがうかがえる金含がたくさん綴られた本だった。
Kはまず、「コミュニケーションをすごく大事にしてるみたいなんだ」という。
スタジオ内では、無言がダメだという。
「え?私語がダメなんじゃなくて?」
「そう、自分が仕事に入り込みすぎてわけがわからなくなるといけないので
みんな、私語をするようにって言ってるらしい。話しかけたり、話しかけられたりしながら仕事しないといけない。
一人の世界に没頭するんじゃなくて、他人に興味を持つことが大事なんだって」
「それから、たくさんの映画をみんなで観る。あとで、どこが好きか、どこがきらいか、
自分が思ったことを言い合う。それをくりかえしていくと、
自分は何が好きなのか、何がきらいなのかが自覚できるようになっていくらしいんだ。
すると、自分と作品も切り離して見えるようになってきて、
映画を観るのと同じように、見ていけるようになるって」
「売れている漫画や、優れている漫画を研究して取り入れるのは、ダメだって。
それより自分の好きなことを深くしていく。
いいものだからといって取り入れると自分がなくなっていく。
編集者さんからのコメントも、何を言われたか全部教えろって言うらしい。
それから自分(先生)の意見も伝えるらしい。
編集者さんも読みながら思いついたことを言うのだから、全部が全部正しいとは限らない。
それをすべて受け入れるのがいいとも限らない」
「僕らは全身全霊をかけて作品を書くから、
それを批判されたら自分が全否定!!!されたような気がして傷つくけど
自分と作品を切り離せるようになると
編集者さんが少しでも作品を良くするために言っているということが
わかってくるし、全部が全部そのとおりでもないこともわかってくるって。
ああ、そうかと思った」
「それから、漫画で何を書くのかっていうのは、ただひとつでいいって。
それは、感動」
「その先生の作品て、ベタな感じもする時があるし絵も雑っぽいと思うときもあるんだけど、
たしかに思うのは、登場人物の感情が伝わってきて、その気持ちになって読んでしまう。
僕はその先生の特別なファンというわけではないけど、ついつい読んでしまう。
(そこに感動があるから・・・・?)」
「僕は、感動というところが見えてなくて、
その周辺の設定とか、雰囲気とかをどうしよう?って考えていたように思う」
「人に興味を持つって大事なんだなあ。そう言えば、学生時代は
ひとつ作品を書くといろんな人に読んでもらった。
ここがいいとか、そうじゃないとか、いろいろな意見があっっても
それを自分の中で仕分けて、参考にしたりしなかったり、判断してた。
もっと、作品の話ができる人がまわりにいたらいいなあ」
(これについては、自分から読んでほしいと言えば、[学生時代のようにすぐ近くにいなくても
自分からコンタクトをとれば]可能なんじゃないかと、言ってみた)
Kの様子をうがかいに、ときどき部屋をのぞいてみると、
インターネットをしてるんだか、音楽をきいてるんだか、漫画を描いてるんだか、よくわからない。
でも、何かをつかもうとして頑張ってるのかな。
それにしても、私語をせよ、というスタジオがあるとは。いいな。
仕事中は私語は厳禁、というのが普通だし、
わたしは私語を交わしたいほうなので普通の仕事場が堅くてあまり好きではない。
反面、集中したいときもあるから、私語をせよという環境が、実際どうなのかはわからない。
ただ、他人に興味を持つ、ということが大切、という教えをKが学んだことは良かったと思った。
Kも、部屋で、いつも一人。だけど、人が嫌いではない。
人に興味をもち、作品のヒントとたくさん出会ってほしい。